老犬の夜泣きに悩まされている飼い主さんは少なくありません。夜中に突然鳴き始める愛犬の姿に、どう対応すればいいのか途方に暮れてしまうこともあるでしょう。
シニア期を迎えた犬は、加齢に伴うさまざまな変化によって夜泣きをすることがあります。これは単なるわがままではなく、何らかのサインであることが多いのです。夜泣きの原因を適切に理解し、正しい対応をすることで、愛犬と飼い主さん双方の夜の安眠を取り戻すことができます。
この記事では、老犬の夜泣きが起こる背景や原因、具体的な対処法について詳しく解説していきます。愛犬との共生を見つめ直し、穏やかな夜を過ごすためのヒントを見つけてください。
老犬が夜泣きするようになる背景

老犬の夜泣きには、加齢に伴う身体的・精神的な変化が深く関わっています。
犬は小型・中型犬で10歳頃から、大型犬では7歳頃からシニア期に入るとされています。人間の年齢に直した犬の年齢は、以下の表の通りです。実際に人間換算での年齢を見てみるとイメージが湧きやすいかと思います。
犬・猫の年齢 | 大型犬の人間換算年齢 | 小・中型犬・猫の人間換算年齢 |
---|---|---|
1歳 | 12歳 | 15歳 |
2歳 | 19歳 | 24歳 |
3歳 | 26歳 | 28歳 |
4歳 | 33歳 | 32歳 |
5歳 | 40歳 | 36歳 |
6歳 | 47歳 | 40歳 |
7歳 | 54歳 | 44歳 |
8歳 | 61歳 | 48歳 |
9歳 | 68歳 | 52歳 |
10歳 | 75歳 | 56歳 |
11歳 | 82歳 | 60歳 |
12歳 | 89歳 | 64歳 |
13歳 | 96歳 | 68歳 |
14歳 | 103歳 | 72歳 |
15歳 | 110歳 | 76歳 |
この時期になると、徐々に身体機能や脳機能の衰えが始まります。若い頃には簡単にできていたことが難しくなり、さまざまな不調や違和感を感じるようになるのです。
老犬の夜泣きは、こうした加齢変化に対する反応であることが多く、「助けてほしい」「何かおかしい」という愛犬からのメッセージと捉えることができます。特に夜間は静かで暗く、不安感が増幅しやすい時間帯です。また、日中に比べて飼い主さんの注意を引きやすいこともあり、夜に鳴くことで自分の不調や要求を伝えようとしている可能性があります。
シニア犬の夜泣きを単なる困った行動と考えるのではなく、愛犬からの大切なサインとして受け止め、その原因を探ることが重要です。適切な対応をすることで、多くの場合、症状を軽減することができます。
老犬の夜泣きの主な原因4つと見分け方
老犬の夜泣きには主に4つの原因があり、それぞれの特徴から原因を見極めることができます。
認知機能の低下による夜泣き
犬も人間と同じように、年齢を重ねると認知症になることがあります。犬の認知症は「認知機能不全症候群(CDS)」と呼ばれ、脳の機能低下によって様々な症状が現れます。
認知症による夜泣きの特徴として、昼夜逆転の生活リズムが挙げられます。日中はよく眠り、夜になると活発になって鳴き続けることがあります。また、次のような行動も認知症の兆候として注目すべきポイントです。
- 名前を呼んでも反応が薄くなる
- 家の中で迷子になったように歩き回る
- 後ろに下がることができず、狭い場所で立ち往生する
- 以前はできていた簡単なコマンドが理解できなくなる
- 無目的に鳴き続ける
認知症による夜泣きの場合、飼い主が近くにいても気づかず鳴き続けることが多く、一度止まってもまた同じように鳴き始めるという特徴があります。周囲の状況に関係なく、自分の世界で不安を感じているような様子が見られます。
身体的不調からくる夜泣き
老犬は関節炎や歯周病、内臓の疾患など、様々な身体的な痛みや不調を抱えていることがあります。これらの不調は、特に体を休める夜間に強く感じられることがあります。
身体的不調による夜泣きは、次のような特徴があります。
- 特定の体勢でのみ鳴く
- 体の特定の部位を触ると痛がる/威嚇する
- 立ち上がりや移動が困難になってきている
痛みによる夜泣きの場合、飼い主が様子を見に来ると一時的に鳴き止むことがありますが、身体に触れようとすると再び鳴いたり、威嚇したりすることがあります。また、同じ姿勢で長時間いることで痛みが増す場合、夜中に体勢を変えたいのに自力では難しく、助けを求めて鳴くこともあります。
環境要因による夜泣き
老犬は環境の変化に敏感で、寝床の状態や周囲の環境が夜泣きの原因になることがあります。特に加齢により皮膚が薄くなり、筋肉量も減少するため、以前は快適だった寝床が不快に感じられるようになることも少なくありません。
環境要因による夜泣きには、寝床に行きたがらない、または特定の場所でしか寝ないという特徴があります。また、頻繁に寝場所を変えたり、床の硬さや温度に敏感に反応したりします。夜間に室温が変わると鳴き始めることもあるでしょう。外の音(雷、風、車の音など)に反応して鳴いたり、お漏らしで寝床が濡れている場合に鳴いたりすることもあります。
環境要因による夜泣きは、環境を改善することで比較的簡単に解決できることが多いです。老犬の体調や好みに合わせた寝床の調整が効果的です。
要求吠えとしての夜泣き
老犬は自分の要求を伝えるために夜泣きをすることがあります。これは「要求吠え」と呼ばれ、空腹感や喉の渇き、トイレに行きたいなどの欲求を表現しています。
要求吠えの特徴として、飼い主の注意を引くための鳴き方をすることが挙げられます。飼い主が反応すると一時的に鳴き止み、要求が満たされると完全に鳴き止みます。無視すると徐々に鳴き声が大きくなり、飼い主の行動パターン(キッチンに立つ、バッグを持つなど)に反応して鳴くこともあります。
要求吠えの場合、その要求が何であるかを見極めることが重要です。老犬は加齢によって一度に食べられる量が減ったり、水分摂取量が変化したりするため、若い頃とは異なる頻度での食事や水分補給が必要になることがあります。また、膀胱機能の低下によって以前よりも頻繁にトイレに行く必要があることも多いです。
症状別|老犬の夜泣き対応ガイド
老犬の夜泣きの原因に応じた効果的な対応方法を紹介します。
認知症や昼夜逆転による夜泣きの対策
認知症による夜泣きに対しては、生活リズムを整えることが最も重要です。日中の活動量を増やして、夜はしっかり休めるような環境づくりを心がけましょう。
具体的な対策としては、朝日を浴びる時間を作り、体内時計をリセットすることが効果的です。日中は短時間でも複数回の軽い運動や散歩を取り入れ、ノーズワークやパズルトイなど、脳を使うゲームで日中に適度な刺激を与えるとよいでしょう。
夕方以降は穏やかな環境を作り、就寝に向けての準備をすることも大切です。就寝時間を一定にし、規則正しい生活リズムを作りましょう。また、獣医師と相談し、認知症サポートのためのサプリメントや薬を検討することも有効です。
認知症は完全に治すことは難しいですが、適切なケアによって症状を和らげることは可能です。愛犬の変化に気づいたら、早めに獣医師に相談することをおすすめします。
身体の痛みや不調がある場合の対応
痛みや身体的不調からくる夜泣きには、まず獣医師の診察を受け、原因となっている疾患の治療を行うことが最優先です。診断と並行して、体圧分散に優れた整形外科用のベッドを用意するなどの対応も効果的です。
関節炎がある場合は、階段の上り下りを減らすなど負担を軽減しましょう。定期的に優しくマッサージをして血行を促進することも有効です。獣医師の処方による適切な痛み止めや抗炎症薬を使用し、部屋の温度や湿度を一定に保つことで関節への負担を減らすことができます。痛みのある部位を温めるなど、症状に合わせたケアを行うことも大切です。
痛みは夜間に悪化しやすいため、就寝前に痛み止めを服用するなど、獣医師と相談しながらタイミングを調整するのも良いでしょう。また、老犬が自力で体勢を変えるのが難しい場合は、夜中に定期的に介助して体勢を変えてあげることも効果的です。
トイレや水分に関する要求への対応
高齢犬はトイレの回数が増えたり、一度に飲める水の量が減ったりすることがあります。夜泣きがトイレや水分に関する要求である場合、以下のような対応が効果的です。
まず、就寝前に必ずトイレに連れて行き、排泄の機会を作りましょう。夜間に何度かトイレに起きる必要がある場合は、夜中に定期的にトイレに連れていく習慣をつけるとよいでしょう。膀胱の機能が低下している場合、我慢することが難しくなっているため、適切なタイミングでのトイレ誘導が重要です。
水分に関しては、寝床の近くに水を置いて、いつでも飲めるようにしておくことが有効です。高齢犬は立ち上がることが辛い場合があるため、飲みやすい高さの水飲み器を用意しましょう。また、夕食後の水分摂取を控えめにすることで、夜間のトイレの回数を減らすことができます。ただし、水を制限しすぎると脱水のリスクがあるため、適度な調整が必要です。
老犬が頻繁に喉の渇きを訴える場合は、病気のサインである可能性もあります。糖尿病や腎臓病などでは、水を多く飲む症状が現れることがあるため、獣医師への相談も検討しましょう。
夜泣きを軽減する環境づくり
老犬の夜泣きを軽減するためには、快適な睡眠環境を整えることが非常に重要です。
安心して眠れる寝床の作り方

老犬が安心して眠れる寝床づくりは、夜泣き対策の基本です。年齢を重ねた犬は体温調節が難しくなり、関節への負担も増えるため、寝床の質が睡眠の質に直結します。
まず、老犬に合った適切なクッション性のあるベッドを選びましょう。関節炎や筋肉の衰えがある場合は、体圧を分散してくれる整形外科用のマットレスやメモリーフォームのベッドが効果的です。薄すぎるクッションは硬い床からの衝撃をそのまま伝えてしまうため、十分な厚みのあるものを選ぶことが重要です。
寝床のカバーは洗濯しやすいものを選び、清潔に保つことも重要です。特に排泄の失敗が増えてきている場合は、防水シートを敷くなどの工夫も必要でしょう。
快眠をサポートする室温・照明・音の調整
老犬の快眠をサポートするためには、部屋の環境を整えることも大切です。高齢犬は体温調節機能が低下しているため、適切な室温を保つことが重要です。
一般的に犬が快適に感じる室温は約20〜25度といわれていますが、個体差もあります。愛犬の様子を見ながら調整してください。夏は涼しく、冬は暖かく保ち、急激な温度変化を避けることがポイントです。特に冬場は、関節の痛みが悪化する可能性があるため、適度な暖かさを保つことが重要です。
照明については、夜間は完全な暗闇より、ほんのりと明かりがある方が安心できる犬も多いです。足元灯やナイトライトなど、弱い光源を使用して、老犬が自分の周囲を確認できるようにすると良いでしょう。ただし、明るすぎる光は睡眠を妨げるため、適度な明るさに調整することが大切です。
音環境も睡眠の質に影響します。静かすぎる環境より、バックグラウンドノイズがある方が安心する犬もいます。そのような場合は、ホワイトノイズマシンや静かな音楽を流すことで、外部の突発的な音に反応して目覚めることを防ぐことができます。
老犬に適した睡眠環境の整え方
老犬に適した睡眠環境を整えるには、愛犬の個性や好みを尊重しながら、年齢に伴う変化に対応することが大切です。
高齢犬は若い頃よりも頻繁にトイレに行く必要があるため、寝床からトイレまでの動線を確保しましょう。夜間でも安全に移動できるよう、段差にはスロープを設置したり、滑りにくいマットを敷いたりする工夫が効果的です。
また、老犬は視力や聴力が低下していることが多いため、環境の変化に敏感になっています。家具の配置を急に変えたり、新しい物を置いたりすることは避け、安定した環境を維持することが重要です。もし変更が必要な場合は、徐々に慣れさせるようにしましょう。
加えて、飼い主の存在も老犬の安心感につながります。可能であれば、飼い主の寝室近くに老犬の寝床を用意することで、安心して眠れるようになる場合もあります。ただし、飼い主のベッドで一緒に寝る場合は、老犬が誤って落ちないよう、低いベッドにするか、ベッドステップを用意するなどの配慮が必要です。
それぞれの犬によって快適と感じる環境は異なるため、試行錯誤しながら最適な睡眠環境を見つけていくことが大切です。愛犬の様子を観察し、安心して眠れる環境を整えてあげましょう。
どうしても解決しない場合は他人を頼る
老犬の夜泣き問題がどうしても解決せず、飼い主さんの生活にも大きな影響が出ている場合は、外部のサポートを検討することも重要です。
獣医師への相談
老犬の夜泣きが続く場合、まずは獣医師に相談することをおすすめします。様々な医学的な問題が夜泣きの原因となっている可能性があるためです。
獣医師への相談では、愛犬の夜泣きの特徴や状況をできるだけ詳しく伝えることが大切です。いつから始まったのか、どのような鳴き方をするのか、どんな時に鳴くのか、他に気になる症状はないかなど、具体的な情報を準備しておくと診断の助けになります。可能であれば、夜泣きしている様子を動画に撮っておくのも良いでしょう。
獣医師は必要に応じて血液検査や画像診断などを行い、痛みや不調の原因を探ります。関節炎、歯周病、消化器系の問題、甲状腺機能低下症など、様々な疾患が夜泣きにつながることがあります。また、高齢犬の行動変化に対応した薬物療法や、認知症の症状を緩和するための薬を処方してもらえる場合もあります。
獣医師との相談は一度で終わらせず、定期的に状況を報告することで、より効果的な対策を見つけることができます。老犬の状態は日々変化するため、継続的なケアが重要です。
介護疲れを防ぐための外部サービス
老犬の夜泣きが続くと、飼い主さん自身も睡眠不足や疲労が蓄積し、心身の健康に影響が出ることがあります。そのような場合は、外部のサービスを利用することも検討しましょう。
ペットシッターサービスや老犬ホームを利用して、時には介護の負担を分担することができます。ペットシッターサービスや、老犬ホームでは夜間も預かってくれるサービスもあり、飼い主さんの休む環境を作ることができます。
外部サービスを利用することに罪悪感を持つ飼い主さんもいますが、自分自身の健康を守ることも、愛犬との長い共生のためには重要です。無理をして倒れてしまっては元も子もないため、適度に他者の力を借りながら、愛犬と共に過ごす時間の質を高めることを考えましょう。
まとめ
老犬の夜泣きを完全に解決することは難しい場合もありますが、原因を理解し、適切な対応をすることで、症状を軽減することは可能です。
愛犬の変化に寄り添い、獣医師や専門家のアドバイスを取り入れながら、愛犬にとっても飼い主さんにとっても快適な環境づくりを心がけましょう。
長年家族として過ごしてきた愛犬とのシニア期は、互いにとって特別な時間です。愛情を持って接することで、穏やかな日々を過ごせることを願っています。